残された人々 ( 後編 )

「レフト・ビハインド」

別名「人間消失」という映画が、昔あった。

人間が同時に地球上から何億人も消える、という映画だ。

ニコラス・ケイジ主演のリメイク版でなく、

その前のオリジナル版の作品だ。

状況がとても、似ていた。

 

 

「人間消失現象」への

各省庁への問い合わせが殺到した。

回線はパンクして、政府は記者会見を開いた。

 

家族が消えてしまった人々は、

消失者たちを探して、幽霊のように歩き回っていた。

 

 

世界中で人が大勢いなくなった。

 

恐怖でパニックになった国民を抑えるため、

政府は有事法や治安維持法を発動させた。

警察官も、

自衛官も、

消防士も、

誰もかれもが悲しみで泣いていた。

UFOによる誘拐か?

それとも某国の新兵器による攻撃?

テレビでもネットでも様々な情報が飛び交った。

 

教会にいた人々はみんな消えてしまった。

おふくろも消えてしまった。

俺だけが残った。

 

「すいません。こちらの方ですか?」

 

「えっ? あ、はい。」

 

「今朝、娘がいなくなったんです。」

 

「あ~。そうですか。・・・」

 

「娘さんは、クリスチャンだったんですか?」

「はい。」

 

「娘は以前こう言ってたんです。」

 

もうすぐイエスさまが迎えに来るから、

自分がある日、いなくなる日がくるから。

それはね。イエスさまが私たちクリスチャンを迎えに来て、

天国に引き上げたってことだからね。

 

お母さん、お願い。

もうすぐイエスさまが来るから。

お母さんもイエス様信じて一緒に天国に

引き上げてもらえるようにしよう。

 

「たしか、そんなことを言ってたんです。」

 

「私は馬鹿馬鹿しく思えて、

相手にしなかったんですが・・・。」

 

「・・・娘は今、天国にいるんですか?

死んでるんですか?

生きてるんですか?

何か知ってたら、教えてくれませんか?」

 

「はぁ、」

 

俺は知っている範囲で、

出来るだけ分かりやすく、丁寧に彼女に「携挙」のことを説明した。

説明していると、どんどん教会に人が勝手に入って来て、

一緒に話を聞いていた。

 

でも、難しい質問もどんどん出てきて困ってしまった。

「神さま、助けてください。

聖書を良く知る残されたクリスチャンを

ここに遣わして下さい。」

 

心の中で静かに祈っていると、

祈り終わらないうちに、

祈りの答えが目の前に現れた。

「きみ、ここの教会の牧師かい?

若っかいなぁ~。」

以前、ある教会の牧師をしていた、という人だった。

 

エッ? 牧師なのに残されたの?

俺も最初はそう思ったんだけど、

話しを聞いて納得した。

 

彼は昔、仕事をしながら、

教会の無い地域で教会を初めたらしいんだけど、

でも上手くいかなくて、

おまけに悪いうわさや誹謗中傷に参ってしまって、

それで教会も、

そして信仰も辞めたんだそうだ。

 

でも、イエスさまを信じ続けていた奥さんや子供たちが、

今朝「携挙」されて「いなくなった」のを目の前で見て、

「やっぱり聖書は正しかった!」って言って

ひっくり返ったんだそうだ。

それで近くにあったこの教会に飛び込んできたんだ。

俺やこの人たちみたいな人が

教会に来ている筈だ!って。

 

で、この人、

聖書にも聖書預言にも、精通していた。

凄い。

大抵のことは何でも知っていた。

 

お客さんへの質疑は彼が行い、

俺は補佐に回った。

「みなさん。安心してください。

みなさんの家族は全員無事です。

より安全な場所に一時的に避難しています。」

「オオ~!!!」

集まっていた人たちはどよめいた。

「いつ戻って来るんですか?」

「どこにいるんですか?」

「誰が連れてったんですか?」

 

「みなさん。まずは落ち着きましょう。

よく聞いてください。

また生きて家族に会いたければ、

これから読む聖書箇所を、一緒に、よく見て、よく聞いてください。」

 

携挙に取り残されたこの元牧師の話しでは、

もうすぐインターネットが規制されるらしい。

 

俺は元牧師に指定されたいくつものサイトを開いた。

そしてそれらのサイトのページを紙に印刷した。

みんな携挙の話を聞いて、

聖書の話を聞いて、

いなくなった家族の話を聞いて、

神の話を聞いて、

イエスキリストを救い主として大勢が信じた。

そしてその人たちの洗礼式がすぐに行われた。

 

この世界を創られたの本当の神さまがおられる。

神さまはあなたを愛している。

しかし私達は罪人である。

そして罪人は、神のいる天国には入れない。

 

しかし愛なる神はイエスを遣わされた。

そしてこのイエスは、私たち人類の身代わりに、

罪の呪いを受け十字架で死んでくださった。

 

そして死後三日の後、イエスは、死を打ち破って復活された。

これによって、人は死後も生きるていることを証明された。

 

そしてイエスは、ご自分のおられるべき場所である天へお帰りになった。

主イエスは、今も生きている。

じつはこのイエスこそ、神である。

 

イエスだけが、我々人類の魂の行き先を、

天国に行きか、地獄行きかを、決めることが出来る唯一のお方である。

 

自分が罪人であることを認め、

イエスキリストの十字架の死と復活は、

自分のためであったことを、信じる者は救われる。

 

 

 

「あなたはイエスさまを信じますか?

「はい、信じます。」

「それでは、父と子と聖霊の御名により、

すなわち、主イエスキリストの御名によって、

この方に洗礼を授けます。」

 

リバイバルだ。

こんなにたくさんの人が同時に洗礼を受けははじめて見る。

 

それから元牧師は、

これから何が起こるかを、分かりやすくみんなに教えてくれた。

 

もうすぐある出来事が起こるらしい。

その出来事が起こると、

「人類史上最悪の悲惨な時代」が始まる、というのだ。

 

キリスト教でこの期間のことを「患難時代」というらしい。

この期間は「7年間だけ」らしい。

でもこの7年間だけで、

地球上のほどんどの人間は死に絶えるんだそうだ。

70億を超える今の人口は、

7年の終わりには

5分の一ぐらいに、あるはそれ以下に

減っていると元牧師は云う。

本当かよ?

 

どうすればこの「7年間」を乗り越えられるか?

 

それをこれから集まるたびに

元牧師はみんなに教えてくれるらしい。

 

その日は長い長い一日だった。

世界で一番長い一日だったのではないか?

結局夕方まで教会にやって来る人は絶えなかった。

 

俺はいなくなった教会の牧師のバイクで家に帰ることにした。

 

天を見上げて、

「先生~。すいませ~ん。バイク、しばらく借りますよ~。」

すると「良いよ~」と、

聞こえたような気がした。

教会に来た人たちは、

自分の家族が生きていると聞いて、

安心して帰って行った。

でも中には、半信半疑の様子で帰って行く人もいた。

不思議だけど、

俺は充実していた。満足していた。

 

俺は聖書のことを文字通り信じている母を馬鹿にしていた。

お母さん!

あなたは正しかった!

 

お母さん、

俺、もう迷わないよ。

俺は神さまを信じるよ。

イエスさまを信じて生きていくよ。

 

これから始まる患難時代を、絶対生き延びて見せる!

 

そんな気持ちがわいてきた。

 

 

不思議だけど、

生まれて初めて「生きてる」実感を感じている。

イエスさま。

イエスさま。

この時のために私は生まれてきたんですか?

私は死ぬ覚悟は小さい時からありました。

でも自殺しなくて良かった。

死ななくて良かった。

生きててよかった。

誰かが俺を必要としている。

誰かが俺の力を必要としている。

頑張ってみます。

どうか助けてください。

 

 

でも俺はこの時、

患難時代の

本当の恐ろしさを

知らなかったんだ。

 

あんなに、

あんなに恐ろしい日々がやって来るなんて、

誰が想像できただろう。

あんな地獄のような日々だと知ってたら、

俺はあんな祈りは

しなかったはずだ。

 

あぁ~。

携挙が起こる前に戻りたい。

こんなことになるんだったら。

 

 

携挙が起こる前に。

 

 

 

 

 

しかし、
 
あなたがたは、
 
やがて起ころうとしているすべてのこと(患難時代)から逃れ、
 
人の子(キリスト)の前に立つことができるように、
 
いつも油断せずに祈っていなさい。
 
ルカ福音書21章26節

 

 

 

 

 

 

 

 

残された人々 ( 後編 )

終わり