米大リーグ、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳・水原一平被告が違法賭博による借金を返済するため、同選手の銀行口座から1600万㌦(約24億5000万円)以上をブックメーカーに不正送金していた問題で、ギャンブル依存症に注目が集まっている。
沖縄で貧困や家庭崩壊の背後に潜むギャンブル依存症問題の啓蒙(けいもう)活動などに取り組む、南城市のつきしろキリスト教会・砂川竜一牧師に話を聞いた。
依存症ビジネス溢れる日本
すながわ・りゅういち(ジョニー・スナガワ・エスコベード) 1970年、米カリフォルニア州生まれ。幼少期に米国人の父親と日本人の母親が離婚し、13歳で日本に帰化。17歳の時、父親と再会した際に通訳を担った牧師に心を救われ、自らも牧師を志す。現在、つきしろキリスト教会牧師として、保護児童の里親も務める。
憲法改正し賭博から国守れ
――ギャンブル依存症問題に取り組むようになった経緯は。
幼少の頃父親がおらず寂しい思いをしてきた経験から、30年前に里親登録をして「親のいない子」(保護児童)を20人以上育ててきた。当時、その数は4万人ほどだったが、少子高齢化にもかかわらず現在も4万2000人ほどいる。
虐待や親の自殺、貧困などで多くの子供たちが保護されている背景に何があるのか考えていた矢先、里子として巣立って行った子供たちが、オンラインカジノや課金ゲームにはまって財産を失ったり、夫のギャンブル依存が原因で離婚し、シングルマザーになってしまう事件が立て続けに起こった。
せっかく立派に巣立って行った子供たちの人生が再び壊されていく現状を目の当たりにして、これらの問題の背後に「依存症ビジネス」が存在していることに気づき、活動を始めることにした。
――ギャンブル依存の最大の問題点は。
家庭崩壊につながることだ。依存症に陥ると、職場や家族、友人に平気で嘘(うそ)をつくようになる。家庭ではネグレクト(育児放棄)につながり、最悪の場合、犯罪にも手を染めてしまう。
――どのような活動をしてきたか。
2015年に、貧困家庭の子供たちのために子供食堂をオープンした。食堂に来る母親に困窮理由を尋ねると、やはりギャンブルの存在があった。
18年には、ギャンブル依存について啓蒙するため街頭演説やビラ配りを始めた。先月には、「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子氏を招いた講演会も開催した。一人でも多くの人に危機感を持ってもらえるよう日々活動している。
――沖縄特有のギャンブルの問題点は。
大前提として、そもそも日本にはギャンブル場が多過ぎる。
買い物帰りの主婦や、仕事帰りのサラリーマンが気軽に通えるパチンコ(パチスロ)店は街中に点在し、公営ギャンブルや宝くじ、オンラインゲームなど、依存症ビジネスがあふれている。
中でも沖縄は、祖国復帰をする1972年まで公営ギャンブル場が入ってこなかった分、パチンコ店が乱立していた。
沖縄のパチンコ店は休みなく毎日営業するため、依存症問題が深刻化した。また日本で唯一カジノのスロットマシンを運営している施設が米軍基地内にあり、一般人が入れるようになっていることも問題だ。
――ギャンブル依存症問題に対する県の姿勢はどうか。
議会に陳情を出してもなかなか動かなかった。
今年3月の県議会で可決された「子どもの貧困対策に関する決議」の内容を見ても、一言も「ギャンブル」について触れていない。
18年に国会で「ギャンブル等依存症対策基本法」が成立したが、県はこれまで具体的な対策に着手してこなかった。
やっと今年の4月から計画を開始したが遅過ぎる。
ギャンブルが沖縄の社会問題の温床になっていることを知らなければならない。
――今後の活動は。
まず、5月14日から20日までの「ギャンブル等依存症問題啓発週間」に、県庁前広場で街頭演説とビラ配りを行う。
ギャンブル場を減らす取り組みに加えて、最近、若者を中心に流行しているオンラインカジノの問題も訴えていきたい。
オンラインカジノは違法だということを知らない人が多過ぎる。(ネット上の広告などを)国が責任を持ってブロッキングしなければならない。
日本が、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」している間に、海外を拠点とする各種賭博が国内に蔓延(まんねん)しているのであれば、すぐに憲法を改正して、自国民を守っていく法体制を整えていくのが政治のあるべき姿だと、多くの日本人に伝えていきたい。
(聞き手=沖縄支局・川瀬裕也)