アメリカに来て一か月が過ぎた。
いろんなことがあったなぁ。
こうして、私の人生を大きく変える運命の「あの日」がやって来た。
父の家にS牧師がやって来た。
私と父の通訳を
するためだ。
以前、
自衛隊の方や、
沖縄県人会の方が、
父と私の通訳をしてくれた。
でも、
父と何も分かり合えることは
無かった。
通訳なんて、
時間の無駄。
こんなことは
無駄なこと。
「では、お話を始めましょう。」
何を話すんだ?
でも、俺はこいつに
言いたいことがある。
あれ?
こいつに何を言いたいのか、
ハッキリ分かるぞ!
何でだ?
そうか!
カウセリングだ!
S牧師が、
俺をカウセリングしてくれたおかげで、
俺は父に
何を言いたのか、
ハッキリ分かるようになったんだ!
そうだ。
俺はこいつを、
この父を、
赦せないんだ!
この馬鹿親父め!
腹が立つ!
許さんぞ!!
「何で? 何であんたは!!!!!!
お母さんや!
ニーナや!
俺を!
捨てたばぁー!?(怒)」
あ~、
通訳が間に、
入る・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・
・・
「何で養育費を!!!!
一ドルも沖縄に、
送らなかったばぁー!!!!
俺の渡米の旅費も、
何でお母さんに払わん!!!
お母さん、
サラ金に追われて、
困ってるばぁーよー!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何でニーナや!
俺の誕生日に!
プレゼントの一個も送ってくれなかったばぁ~?
なんでクリスマスプレゼントも、
送ってくれなかったばぁ?
(寂いだろ。)
(注)語尾に「ばぁ~」が付くのは、
那覇市の小禄方面の方言。
心の中に秘めていた言葉が、
ペラペラと
飛び出してくる。
父が沖縄を去ったとき、
俺はまだ幼かった。
だから俺には父の記憶は無い。
だから「恋しいと」は、
思わない。
けど、
姉は違った。
ニーナは違った。
姉のニーナには、
父の記憶が当時ハッキリあった。
大好きなパパ。
「ニーナ。必ず迎えに来るからね。約束だよ(父)。」
そう言って父は
アメリカに飛び立っていった。
ニーナは、
父を信じていた。
約束を、
信じていた。
かわいそうな
ニーナ・・・
「ジャーニー! 起きて! パパのところに行くよ! 」
「はぁ~? 眠いよ~(泣)。」
母が夜の仕事に出かけたあと、
ニーナは俺を起こして、
よく那覇空港まで
歩かせた。
「 アメリカに行くよ! 」
はぁ。はぁ。はぁ。
「 パーパーが居る、アメリカに行くよ! 」
「 パパのいるアメリカに、行くよ! 」
はぁ、はぁ、はぁ、
「ニーナ―。帰ろう~(行けるわけないじゃん)。」
夜の国道を、
車が激しく行き交う夜の国道沿いを、
児童が二人、
大きな荷物を引いて歩いてる。
那覇国際空港を目指して。
自衛隊のフェンスの向こうに、
那覇空港が見える。
飛行場はすぐそこだ。
・・・・
でもニーナ。
切符は?
パスポートは?
お金は?
子どもだけでは、アメリカまで、行けないでしょ?
アメリカは、
地球の向こう側だよ。
心の中でニーナに話しかける。
ニーナはいつも
じっと飛行場の方を見つめていた。
・・・
俺でも分かる。
アメリカなんか、
行けないよ。
賢い姉ちゃんだから、
分かるはずなのに・・・
・・・・
・・・・・
「 ジャーニー。帰ろうか。 」
やったー!
「 パーパーのところには、
次に、
行こうね~。 」
「・・・うん。」
ニーナは帰り道
いつも泣いていた。
パーパーに
会いたいだろうに。
パーパー。
パーパー。
何で来なかった!?
何で?
「 何で迎えに、来なかった?
ニーナを迎えに来なかった!
あんた!
酷いよ! 」
父は泣いていた。
私も泣いていた。
見ると、
通訳のSさんも、
泣いている。
俺はこの馬鹿野郎に
ずっと言ってやりたかったことを、
今日、
全部言うことが、
出来た。
どれぐらい時間がたっただろう。
・・・・
沈降が続いた・・・
Sさんが
話しかけてきた。
「 ジョニーくん。
もう、
ゆるしたら? 」
「エッ?」
「エッ?」
「 ゆるしてあげたら? 」
「 ゆるす? 」
「 へ? 」
ハーフ牧師がゆく
続く・・・