ハーフ牧師がゆく 16話

生きていくには、

お金がいる。

 

デンチャの家には18歳まで住めることになった。

しかしあと半年で私は18歳になる。

それまでに自立しなければならない。

 

それにデンチャや

アゴスティーニに、

家賃も払いたい。

 

いくら親戚とはいえ、

昨日今日、初めて会った人たちである。

甘えるわけにはいかない。

豊かな暮らしを、しているようではない。

二人に迷惑をかけて、

私は申し訳ない気持ちで、

いっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

「S先生。私、仕事がしたいんですが、何か、仕事はないですかね?」

「う~ん・・・。難しいなぁ。」

「ジョニー君は、英語は出来ないし、

何か資格や技術があるワケでもない。

う~ん。難しいな。

 

ここは全米で9番目に失業率が高い町なんだ。

メキシコからの移民が

仕事を探して、町にあふれているからね。

 

ジョニー君が仕事を見つけるのは、

そうとうに難しいかなぁ。」

 

 

S先生もここでは苦労したんだろう。

言葉に実感がにじみ出ている。

 

「でもS先生。さっき、神さまに不可能はない。って、

そう言ってたじゃないですか。

神さまになら、

何だって出来るんですよね?」

 

「う~ん。そりゃそうだけどね・・・。」

「ジョニー君。お祈りしよう。」

S先生は私に、

仕事が与えられるように、

と、神さまに祈ってくれた。

 

 

次の日、

私は仕事を探しにバイクで出かけた。

サンアントニオ市を一周している国道を、

ひた走る。

 

大きな道路と大きな道路が交差する所は、

「モール」と呼ばれ、栄えている。

 

そこは大きな駐車場があり、

レストランやショップが立ち並んでいる。

 

日本人レストランはないかな?

 

探してみるが、

日本人レストランらしき看板は

何処にも見当たらない。

 

チャイニーズレストランは

どこにでもあるなぁ。

大きなチャイニーズレストランがあった。

Golden wok  ?

金の、仕事?

(いえいえ「金の鍋」です)

 

大きな店だな。

ここらでは一番大きいなレストランかな?

 

ここで働かせてもらえないかな。

私はバイクで裏口に回る。

 

 

 

大きなゴミ箱から、くさい臭いにおいがする。

足元は水でビチャビチャだ。

まぁ、レストランの裏口とは、こんなもんなんだろう。

 

 

裏口のドアの前に立って、

ドアのノブをつかむ。

が、怖い。

 

ドアを開ける勇気がない。

 

英語が、

出来ないのだ。

 

どうやって意思を伝える?

 

 

私はバイクに戻り、

バイクのポケットに入れてある

「ひと言英会話」を開いた。

 

 

適当な文章を見つけた。

 

唱えてみる。

「May I Speak Manager ? 」

 

意味=(私はマネージャーと話がしたいです。)

「May I Speak Manager ? 」

何度か唱えてみる。

「 May I speak Manager ? 」

 

 

覚えたかな?

 

私は裏口のドアをつかむ。

ドキドキする。

駄目だ。

出来ない。

言葉が

 

通じないのだ。

 

 

その後、

何と言えばいいんだ?

 

 

 

 

私は途方に暮れた。

 

 

天を見上げる。

 

 

 

神さまに語りかけてみる。

 

 

イエスさま。

聞こえますか?

・・・・

イエスさま。

お願いします。

私を助けてください。

 

 

 

 

 

私は生まれてはじめて

お祈りをした。

「イエスさま。

聞こえますか?

どうぞ。」

・・・・・・

返事を待つが、

何も帰って来ない。

 

 

「イエスさま。

お願いです。

どうか助けてください。

 

 

私は英語が出来ません。

だから、

あなたが通訳してください。

 

あなたは何でも出来るお方。

あなたは世界中の人間を創られた方です。

 

 

だったらあなたが世界中の言語を創られたはずです。

 

 

だったらあなたには、

英語も、日本語も、

中国語も、フランス語も、

 

何語でも出来るはずです。

 

 

あなたは、

あなたを信じる者と共にいてくださる、

と昨日、聞きました。

 

だったら、

私とともにおられるなら、

あなたが私の通訳してください。

 

お願いします。

仕事をください。

願いします。

 

え~~~っと。

アーメン。」

 

 

 

私は裏口のドアをつかんだ。

「May I Speak Manager」

「May I Speak Manager」

「May I Speak Manager」

「May I Speak Manager」

「May I Speak Manager」

「May I Speak Manager」

 

ドアを、

開ける。

目の前に東洋系のおばちゃんがいた。

 

「メメメメメメ・・・」

 

緊張して言葉が出てこない。

 

「メメメメメ・・・」

 

「メメメメメメ・・・」

 

「メメメメメ・・・」

「May I Speak Japanese ? 」

 

私は緊張のあまり、

別のことばを

言ってしまった。

「May I Speak Japanese ?」

意味=( 日本人はいますか? 話がしたいのですが。)

 

 

 

 

 

 

 

おばちゃんが言った。

 

 

「Yes. It`s Me」

意味=(はい。それは私よ。)

 

 

 

 

「え~?おばちゃん。日本人?」

「そうよ。」

 

 

「お願いします。通訳してください。ぼく、仕事がしたいんです!」

 

おばちゃんは

 

私を見た。

足から、頭まで。

「う~ん。難しいと思うよ。」

 

 

「これ見て。

これはResume(履歴書)。今日あなたがリザメを出しても、

こんなに働きたい人たちがいるの。

 

この人たちが先に採用されて、

さらに、

その人たちが辞めていった後に、

あなたに電話が来るのよ。

 

 

 

だからあなたがここで働くのは、無理だと思うわ。」

 

 

 

「それでもかまいません。

お願いします。

通訳してください!

 

マネージャーさんと話をさせてください。」

 

 

 

 

 

「・・・・・・。分かった。マネージャーを呼んでくるわね。」

 

 

 

しばらくして

マネージャーが出て来た。

鋭い目をしている。

 

 

ファイという名の

中国人だった。

 

 

彼も私を、

足の先から頭のてっぺんまで見る。

 

私の靴には、

穴が開いていた。

恥ずかしい。

 

頭の髪の毛は

伸び放題である。

 

ファイがおばちゃんに何か話している。

 

「あのね。ファイが言うにはね。

昨日まで皿洗いしてたメキシコ人の高校生が、

仕事がキツイからって辞めるって、

今電話があったんだって。

 

それでね、

あんたが本当に働きたいなら、

今からすぐ働けるか?って、

そう聞いているわよ。

 

どうする?」

 

 

私はびっくりした!

 

「はい!はい!働きます!働きます!

働かせてください!」

 

私はファイとおばちゃんに

お辞儀した。

 

 

ファイは厨房のスタッフの一人を呼んで

私を託した。

何か話しかけてくるが、

さっぱり分からなない。

 

歩き出したので、

ついて行く。

 

ロッカールームに案内される。

 

今日辞めたと男のユニフォームが、

私のユニフォームになった。

洗われてなくて、

すんごく、

わきが臭い。

 

 

トイレも汚物であふれている。

ギョエ~。

オエ~。

 

 

ポロシャツ。

帽子。

雨靴。

エプロン。

 

準備オッケー!

ロッカーを出ると、

 

ビックマンが立っていた。

「 You  Do ! 」

 

 

「はぁ?」

「 You Do !  You Do ! 」。

 

 

「You」は「あなた」?

 

「Do」は「する」だっけ?

 

「お前がやれ!」ってか?

 

「 OK! OK! 」

私はモップを手に取り、

床を拭いた。

 

 

 

 

 

大きなレストランだなぁ。

メキシコ人。

アメリカ人。

韓国人。

台湾人。

ベトナム人。

カンボジア人。

 

いろんな国の人たちが働いているなぁ。

 

モップをしていると、

誰かがおしりを撫でてきた。

 

「は?」

振り向くと、

金髪の太ったおばさんメキシコ人が笑ってウインクする。

 

 

ゲゲゲ。

愛想笑いをして

仕事に逃げる。

 

「さすがアメリカ。」

 

 

 

 

モップ吹きが終わると、

皿洗い場に案内される。

 

 

ここが俺の持ち場か。

 

 

「 Do This . Do That. 」

意味=(こうして、ああして、)

 

何となく、理解できる。

「 OK !  Yes I Do !  」

 

俺の仕事だ。

覚えるぞ!

 

 

そうこうしているうちに、

夕方のディナーラッシュが始まった。

「 Hey Jhonny hurry up ! 」

意味=(ジョニー!急いで!)

 

ここは戦場か?

 

使われた皿やコップが

山のように運ばれてくる。

 

 

「皿が足りない!ジョニー皿はまだか!?」

怒声が飛ぶ!

 

「Yes  Yes !」

乾燥機から皿を取り出し、

各皿置き場に、

小走りで持って行く。

 

 

夜の10時をまわった。

 

閉店の時間だ。

 

 

「ジョニー。これで最後よ。」

私は最後の皿の食べ残しを残飯入れに放り込み、

皿の油を水で流し、

食器洗い機に入れた。

 

食器洗い機のボタンを押す。

 

チーン!

出来上がり!

 

 

乾燥して熱くなった皿を持ち、

各皿置き場に置いてくる。

 

 

 

「Finish ! Finish!」

意味=( 終わったよ。終わったよ。)

 

誰かが言った。

 

 

 

 

疲れた。

終った。

 

最後にモップで拭き掃除する。

これも私の仕事だ。

 

 

終った!

最後に手を洗う。

その時だった。

 

 

全身に電気が走ったようだった!

 

 

全身に鳥肌が立った!

 

怖くて怖くて、

私はガタガタ震えた。

 

 

恐い。

 

恐い。

恐い。

 

恐い。

本当にいるんだ!

「ヒ-------(怖)」

 

 

神さまって、

本当にいるんだ。

 

恐い!

 

 

日本にいる時は分からなかったけど、

日本を出たら分かった!

 

神は本当にいるんだ!

 

そして本当の神とは、

イエスキリストだったんだ!

 

 

イエスキリストが神さまだったんだ!

 

うおー。

恐い!

知らなかった!

 

イエスさまって、

概念じゃないんだ!

 

イエスさまって、

思想じゃないんだ!

 

 

 

 

イエスさまって、

本当の神さまなんだ!

 

 

知らなかったとはいえ、

 

なんてことだ!

恐ろしい!

 

 

こんな大事な事を、

知らなかったって!

 

怖い。

恐ろしい。

 

神はおられる!

それはイエスキリストだ!

 

私は怖くて怖くて、

 

いつまでも

いつまでも

震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

地の果てのすべての人々よ、

わたしを仰いで、

救いを得よ。

わたしは神、

 

ほかにはいない。

 

 イザヤ書 45章22節

 

 

 

 

 

ハーフ牧師がゆく 16話

続く・・・