ハーフ牧師がゆく 3話

第3話

「思い出がいっぱい」

正義の味方と呼ばれた私は中学では一転、

「いじめられっ子」になってしまった。

 

 

いじめられっ子なのに、

勉強も出来ない。

困ったもんだ。

かつていじめられっ子から助けてやった子達や

友だちだと思っていたのりお君にまで、

飛び蹴り用のサウンドバック代わりにされてしまった。

 

僕は完全に、

自信を喪失していた。

 

そんなある日、

那覇市役所に久しぶりに出かけた。

 

一時期は頻繁に通った那覇市役所。

 

よく母は、

役所の職員たちと激しい言い合いをしていた。

 

理由はその日に分かった。

役所につくと市長室に来るように言われた。

何で?

市長室?

入るとスーツを着た立派な紳士が迎えてくれた。

緊張した。

緊張して下ばかり見ていた。

緑色のカーペットが強く記憶に焼き付いている。

 

市長は立ち上がると

「おめでとう!」

「君は今日から日本人だ!」

そんな話をしばらくしてくれた。

 

嬉しかった。

たくさんたくさんいる、

ただの中学生の一人にしか過ぎない自分。

勉強もできない、

友だちもいない、

弱い私に、

立派な大人が接してくれた。

 

紳士的に接してくれた。

嬉しかった。

 

私は、

自分の名前を自分でつけた。

名前はいろいろ考えた。

 

で、やっぱり漫画の影響である。

あだち充の漫画は大好きでほとんど持っていた。

一番大好きな作品は「ナイン」だけど、

一番好きなキャラクターは「みゆき」に出てくる「間崎竜一」だった。

母子家庭出身、

ケンカが強くて、

明るくて、

一目ぼれしたみゆきちゃんのためになら、

苦も無く高校2浪を選択する。

 

愛する者のためになら、

どんな犠牲や労をも惜しまない。

 

そんなキャラにあこがれた。

 

僕の名前は今日から砂川竜一です。

よろしくお願いします。

 

僕は、日本人になった。

 

 

 

 

しばらくして、

国際福祉事務所の紹介でやって来た怪しい人々が、

私の日本人証明書や様々な資料を、

すべて借りて行った。

 

母は自分に笑顔で接してくる人を、

誰でも疑わずに信じた。

しばらくして、

 

国籍法改正!

というニュースが飛び込んできた。

 

母親が日本人であるならば、

その子どもは日本人に成れる、という法案だ。

母がやってきた事が国会で法律化された。

 

テレビでは

土井たか子という人が褒め称えられていた。

でも、

本当は母が褒め称えられるべきではないだろうか?

 

あの怪しい人々は、

社会党の人たちだったのだろうか?

 

貸した資料や日本人証明書は二度と戻ってこなかった。

母は死ぬまで貸したことを悔んでいた。

 

大好きだった国際福祉事務所は、

それ以来

全く行かなくなった。

 

 

そうこうしている、

そんなある日、

私は試験で最下位の席次を取った。

 

バカな友達の克己に負けた。

二人で大笑いした。

 

 

しかし母には

耐えられなかったようだ。

担任の赤嶺先生に呼び出され、

そうとうショックを受けていた。

 

その夜、

母は僕と姉を連れて、

那覇の中華料理屋に連れて行ってくれた。

そして食べて満足したころ、

母は突然、

土下座した。

「お願いよ~。ジャーニー勉強してよ~。」

「お願いよ~」 ワ~ン(泣)

 

ショックだった。

 

いつも怒ってばかりいるけど、

いつも怖いけど、

 

それでも

大好きなお母さん。

尊敬するお母さん。

 

私が徴兵されてベトナムに送られないように、

役所や国と戦い、

私を日本人にしてくれたお母さん。

 

そのお母さんが土下座して

僕にお願いしている。

「勉強してほしい」と。

 

ショックだった。

 

ショックだった。

 

次の日、

僕は近くの塾に入った。

アルファベットも知らないバカである。

でも塾の先生は言った。

分からないことがあったら聞け!

聞くは一時の恥!

聞かぬは一生の恥である!

分からないことがあったら質問しろ!

私は分からないことだらけだったので、

休み時間は職員室に入り浸った。

 

塾では5教科しか教わらなかったが、

学校の試験は9科目あった。

 

試験が終わった。

二日後に職員室に呼び出された。

先生たちが集まって来た。

誉めてくれた。

凄いよお前!

頑張ったな!砂川くん!

嬉しかった。

 

塾の先生たちもほめてくれた。

嬉しかった。

300人抜きは、

当時の小禄中学の新記録だった。

 

でも、

克己君は、

それ以来、私とはつるまなくなった。

さびしくなった。

 

また一人ぼっち。

あ~あ。

 

 

 

ある日、

姉と映画を見に行った。

 

大好きな俳優・シルベスター・スターローンの新作映画

オーバーザトップだ。

 

生き別れの父親と息子が再会して、

きずなを取り戻す、

という映画だ。

腕ずもうを軸に描かれた映画だが、

美しいアメリカの大自然や、

父と再会し、

生きる喜びを見出した息子を見ていると、

「良かったなぁ」「良かったなぁ」と涙が出てきた。

 

その映画に前後して、

バックトゥザフューチャーとい映画も見た。

タイムマシンのデロリアンに憧れた。

あ~、

そろそろ進路を決めねば。

母は好きにしろという。

うちには大学に行くような余裕はなかった。

就職に有利な高校が良い。

工業高校か?

では何科だ?

 

オーバーザトップのトラック、

バックトゥザフューチャーのタイムマシン、

そうだ、

自動車科にしよう。

その年、

自動車科は県内で最大の倍率だった。

私をいじめた子たちも受験してたが、

一人も合格できなかった。

 

新しい友人。

新しい学生生活。

新しい希望。

 

将来私は自動車整備士か、

自動車関連の仕事につく、という夢を見つけ、

希望に燃えていた。

 

まさかそこで

修羅場が待ち受けているとは知らずに。

 

 

 

ハーフ牧師がゆく

続く

 

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