ハーフ牧師がゆく 5話

「おっ! ガンマー250だ!」

「かっこいいー。」

クリスマスの交通事故から数週間後、

私はバイトに復帰した。

 

バイク事故で顔の右半分の皮が剥けた。

けど不思議と、数週間後には、皮はきれいに完治した。

 

早く働きたかった。

働くことが、楽しかった。

自分を必要としてくれる場所がある。

自分を必要としてくれる人がいる。

そこにいたい。

 

働くことは楽しい。

それなのに、

お金ももらえちゃう。

こんなに嬉しいことはない。

 

 

 

お金があると、

欲しいものも買える。

 

 

 

バイク事故にこりて、

バイクを辞めようかとも思ったが、

やはり、沖縄では車が無いと不便である。

そこで私は念願の大きなバイクを手に入れた。

 

 

 

友達たちも、

次々に自分のバイクを手に入れた。

80年代は、

空前のバイクブームである。

 

「みんなでツーリングに出かけよう!」

「俺たちは今日から「チームでんでん」だ!」

 

「でんでん」とは「カタツムリ」のことで、

『ゆっくり走る虫みたいな連中』という意味である。

私は、

希望の高校に入学した。

素晴らしい友人達にも囲まれている。

 

自分を必要としてくれる職場でも働けてる。

大きなバイクも持っている。

幸せなハズだ。

 

幸せのハズなのに、

、、、、

何だ?

 

この「むなしさ」は?

 

希望の高校に入りさえすれば、

きっと「何かが変わる!」そう思ってた。

 

受験さえ乗り越えれば、

「人生の意味と答えが見つかる!」そう思っていた。

 

 

でも、高校に入ったけど、

そこに「答え」など、

無かった。

 

 

 

 

 

 

 

ある日、

私の後ろの席にいる子が

気になり始めた。

Y君だ。

 

Y君が他の生徒達から

いじめを受けていたからだ。

でも、Y君と私は友達でも何でもない。

助けてあげる義理は、無い。

 

では、

義理を作ればいい、、、、

 

 

私は後ろを向いて声をかけた。

「お前、ガンダム好きか?」

「えっ? う、うん。」

 

義理は、出来た。

「イエーイ、当たったー!」

「ハハハハハハ」

Y君の雑誌をつかむと、いじめっ子めがけて投げつけ、

そして脅した。

「死なさりんど!アホ!わん(私)の友達どー!」

 

Y君へのいじめは、この瞬間から止んだ。

 

 

この事件以来、

いじめられている子が、

私の周りに集まってきた。

教室に一人でいる子を見つけると、

私は声をかけて友達になった。

一つの集団になっていた。

 

 

私はいつも、

チームでんでんの仲間と、

ランチを校外の居酒屋で食べた。

 

一人っ子の連中は、

私達のランチが終わるで

店の入り口で弁当を食べながら

待っていてくれた。

 

他の生徒たちは

この集団のことを、

「砂川組」と呼んでいた。

と、後から聞いた。

 

そんなある日、

N君という子が声をかけてきた。

「砂川くん。神さまって信じる?

キリストって、どう思う?」

 

N君はクリスチャンだった。

私のことを「クリスチャン?」そう思ったのかもしれない。

「ボケ!俺が神じゃ!」

私は振り向きざまに、N君を殴った。

 

「神なんかに頼るな!

お前の人生だろ! お前で歩め!」

私はN君に説教した。

 

 

 

 

私は宗教を、憎んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

私の母は真理を求めて、

ありとあらゆる「神々」に取りつかれていた。

夫のいない母は、

心の支えを求めていたのかもしれない。

 

神社仏閣・宗教施設などを訪ねては、

祈祷してお金を貢いでいた。

 

貧乏な我が家は、

それが原因でますます貧しかった。

 

夫に捨てられた母が、

哀れだった。

 

私は宗教を憎んだ。

 

そんなある日、

那覇市内にある宗教施設でのことだ。

祭壇の上に

妙な格好のおっさんが祭られていた。

 

「おばさん、あのおじさん、誰ですか?」

私は祭壇の上にある写真の人物を指さした。

 

「あの方が神さまです。」

「へっ?」

 

「ただいま東京にいます。時々、沖縄にも来ます。」

「ハッ?」

 

「入会金は30万円です。」

「へっ?」

 

私はあっけに取られて、気絶しそうになった。

そして次の瞬間、怒りで爆発しそうになった。

神って、東京にいたら沖縄にはいられないの?

神って、金が無いと困るの?

分かった! よく分かった!

 

神なんかこの世にいない!

宗教は全部、嘘! 宗教なんかペテン!!

宗教を食い物にして、心の弱い人をダマす連中はみんな、

ゴミ野郎!の、くそ野郎だ!

 

 

 

 

私は宗教を憎んだ。

心から憎んだ。

 

 

そんなある日、

母が自分の罪を告白した。

 

母が赦しを求める理由を、その日、私は知った。

ハーフ牧師がく

続く。

 

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