ハーフ牧師がゆく 6話

そんなある日、

母が自分の罪を告白した。

母が赦しを求める理由を、

その日、私は知った。

 

 

その夜バイトを終えると、

私はバイクを走らせた。

 

遠くへ。

ここではない、

何処か遠くへ、行きたかった。

 

気が付くと、本島最北端の

辺戸岬に来ていた。

私には、弟が、いたそうだ。

 

 

同じアメリカ人の父との間に出来た、男の子。

 

 

母が妊娠を知った時、

米兵の父は、母と私達を残し本国へ帰っていた。

 

母は病院へ行き、

弟は生まれてくることなく、殺された。

 

小さな棺に入ったその子に、

母は「ジョージ」と名をつけた。

 

 

ゴメンな。

ゴメンな。

お兄ちゃん、

お前のこと、

守ってあげられなかった。

ゴメンな。

 

 

神よ、

あなたって、本当にいるの?

神よ、

天国って、本当にあるの?

神さま、

弟はそこに、ちゃんといますか?

 

元気にしてますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後の朝、

私は待ち伏せしていた生徒指導の若い先生に

バイク通学で捕まった。

バイクの免許を取らない。

バイクに乗らない。バイクに乗らせない。

そんな「バイク三無い運動」真っ盛りの時代である。

 

他の生徒からの密告があった。

と、後から聞いた。

 

 

 

「砂川、何で空手に来ない?」

生徒指導の一人は空手部の顧問だった。

バイク通学で指導を受けているのに、

空手部の話し?

 

こんな自分を、待っててくれてたの?

申し訳なく、

在り難くて、

 

嬉しかった。

 

 

 

 

母が電話で呼び出された。

校長先生と、

生徒指導の先生方が会議室に集合した。

「お母さん! バイク通学は禁止ですよ!」

校長先生が一人でずっとしゃべっていた。

「お母さん?

あなた、水商売しているそうですね?

だから息子さんは「社会のルール」が守れない子に

なったんじゃないんですか?」

 

「お母さん?

御主人がいないそうですね?

だからお子さんは「社会の常識」も分からない子に、

なったんじゃないんですかー?」

 

 

ハッ?

校長先生、言いすぎじゃん?

 

私でさえそう思ったが、

他の先生方は下を向いて、黙っていた。

 

 

今思えば、

校長先生は、私の母親を叱責することで、

私に深く反省させたかったのかもしれない。

 

 

でもそんなことは、

「社会のルール」も「社会の常識」も分からない私には、分からないのだ。

それどころか、

私は怒りで憤死しそうになっていた。

私は校長先生に灰皿を投げつけたい衝動を抑え、

母と二人頭を下げて、

会議室を出た。

 

「母さん、ゴメンね。

・・・・・母さん、この学校辞めていい?」

 

母には、この言葉は、悲しかったハズである。

 

しかし私が探していた

「生きる意味」は、ここには無かった。

 

「・・・・あんたの人生さぁ、

あんたの好きなように、 生きたらいいよ。」

母はどんなときにも、私の味方だった。

 

私は正門の外に留めてある、

Z400GPのエンジンをかけた。

 

ブオーン!

バイクにまたがると、

ゆっくりと、校内に入り、走り始めた。

 

アクセルを全開に吹かした。

ブオーン!

ブオーン!

ブオーン!

 

生徒指導の若い先生たちはビックリして

職員室から駆け出してくる。

「何やってるかー!コラー!」

「停まれ!」

「停まれ!こらー!」

 

運動場で先生たちと、バイクで追いかけっこした。

生徒たちは窓から顔を出し、

「スクール・ウオーズだー!」と盛り上がってくれた。

 

私が正門の外にバイクを乗り出し、

停車させると、

先生たちは校内で立ち止まり、

じっと見ていた。

 

私はアクセルを全開にして、

愛する母校に

別れを告げた。

ブオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!

先生たちが呆れて見ているなか、

私はゆっくりと

バイクを発進させた。

 

頭の中では、

尾崎豊の「卒業」が、

流れていた。

 

 

 

 

 

 

しばらくして、我に返った。

あ~!なんてことしちゃったんだ~!

高校を辞めるなんて~!

 

私は人生の落伍者になった。

 

 

「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

 

 

それでも、

肩を落として歩く私に、

母は優しく声をかけた。

 

母はいつでも、私の味方だった。

 

高校を辞めたことを、

私は深く後悔した。

 

「あと、たった一年半我慢すれば、卒業できたのに~!

俺は何て、馬鹿で阿呆なんだ!」

 

私は後悔の念に押しつぶされて、

狂い死にしそうであった。

 

 

 

 

 

人は失敗から「学ぶ」。

いや、もしかしたら、

人は失敗からしか学べないのかもしれない。

 

高校を辞めたばかりの2~3年は、

後悔ばかりして、私は苦しんだ。

 

人は「決められた線路」を外れると不安になる。

 

でも後に「あれがあったから、今日がある!」と、

思えるような「素晴らしい未来」がやって来た。

 

だからあれはあれで良かったな!と、今では本気で思えている。

 

もし、このブログを読んでいる人の中に、

「高校を辞めたい」そう思っている高校生がいたら、

お前に言いたいことがある。

 

高校、

辞めるな!

 

もう少しだけ

あと一か月だけでも、

頑張ってみろ!

 

人生に、逃げ場なんてない!

今逃げたら、将来、また逃げるぞ!

いつかは、立ち向かわないといけないんだ。

 

苦しみの無い人はいない。

みんな何かを

背負いながら生きているんだ!

苦しみの中でしか、人は成長できない!

逃げるな!苦しめ!

逃げるな!戦え!

 

立ち向かえ!お前なら、

きっと出来る!

 

 

ついでに、

もうすでに「高校を辞めた」子にも、

言いたい。

 

いいか?

よく聞け!

 

高校は

義務教育じゃない。

辞めたこと、後悔するな!

 

お前は凄い奴だ。

普通なら出来ない決断を

お前は軽々と出来たんだ。

 

お前ならきっと、

今に何か凄いことをするに違いない!

 

期待してるぞ!

 

お前は特別で、ユニークで、根性がある!

だからお前なら大丈夫だ!

 

頑張れ!応援してるぞ!

 

 

最後に、

「高校を中退したことを後悔してる」子に言いたい。

 

今日

という日は、

残されたお前の人生の中で、

お前が最も若い日だ。

 

さぁ、何をぐずぐずしてる!

中退を後悔してるぐらいだったら、

お前でも入学できる「高校」を、いま直ぐ探してこい!

 

俺は21才の時に、もう一度高校に入学したぞ。

恥ずかしかったよ。もんのすごく。

 

でも、教室に入り、自分の席に着いた時は、嬉しかったね。

やっと帰って来た!そう思って、机をなでなでしたよ。

俺が高校を卒業できたのは24才の時。

 

いいか!今からでも、絶対に遅くない!

 

人生、まだまだこれからだ!

お前の人生の最高は、まだ始まってもいない!

さぁ、立て!検索しろ!

お前が入れる高校を調べて、直ぐに電話しろ!

もたもたするな!

 

お前の人生、まだまだ、これからだ!

 

 

聖書にはこうある。

神を愛する人々、

すなわち、その名を信じた人々には、

神は万事を働いて、

益としてくださることを、

私達は知っています。

ローマ書8:28

 

失敗して、

そこから何かを学んだなら、

それで良し!

 

失敗して、

おかげでで何かが成長したのなら、

それで良し!

 

それは「益」になったんだ。

と、聖書は云う。

 

神はあなたを愛している。

大丈夫だよ。

大丈夫。

 

成長できたか?

何か学んだか?

 

 

 

 

良かったな、

失敗して。

 

 

 

失敗、

おめでとう。

 

 

失敗牧師がゆく

続く。

 

 

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