ハーフ牧師がゆく 8話

LAX? ラックス石鹸? いいえ。

これはアメリカの空の玄関口「ロサンゼルス国際空港」を略した看板です。

しかし私がこの看板の意味を知るのは、

その後、20年ぐらい経ってからのことだった。

 

 

 

私は、国際線と国内線は別の建物である、

ということが分からず、

国際線で国内線を探して、しばらくウロウロしてた。

すると日本語で語りかけられた。

「コレ、アナタニダケ、アゲル。イイヨ、モラッテ」

「おー! 日本語。 本当に?」

怪しいインド人?に小冊子をもらうとこう言われた。

「20ドルネ!」

 

あっけにとられた私は、見事にぼったくられてた。

 

いろんな意味でこう思った。

「さすがアメリカ。」

 

数時間して飛行機は、

テキサス州・サンアントニオに着いた。

到着口を出ると、直ぐに私はランボー(みたいな人)を探した。

ところが向こうから、

汚いメタボ体形の、メキシコ人男性が近づいてくる。

写真を見てキョロキョロしているあのおじさんが、ぼくのお父さん?

私は後ろを振り向いて、

向こう側を探したが、他に人捜しをしてる人はいない。

 

ふり返ると、そのメキシコ人は私の目の前にいた。

目が合った。

彼は、写真を見て、私を見て、

写真を見て、私を見て、

写真を見て、私を見て、こう言って、抱きついて来た!

「オー・マイ・サン!(我が息子よ!)」

私は叫んだ「オー・マイ・ガー(なんてこった!)」心の中で。

 

空港から数十分の住宅街に、父の白い家はあった。

今考えたらたいした家ではないのだが、

その時は「父は自分の家を持っているのか!」

凄い!と思った。

お金持ちなんだなぁ。と感心した。

 

父の家族は、父と、父の新しい奥さんのジョーと、

奥さんの連れ子のキャリーと、

私と異母兄弟の弟フランクの4人暮らしだった。

 

英語で彼らはずっと私に何かを話しかけていたけど、

何を言っているのか、さっぱり分からなかった。

この家族は4人暮らしであるが、

駐車場には、二人乗りのトラックが二台あるだけだった。

ここら辺も、

「さすがアメリカ。」と思った。

 

次の日、父は私とフランクを連れて、

サンアントニオの観光地に行ってくれた。

一生懸命に何かを説明してくれるのだけど、

意味は、分からない。

そのうち、分かるようになるんだろうなぁ。

 

私がここに来た初日に覚えた英語は「タイヤー」だった。

Tired

何度も「タイヤ?」「タイヤ?」と聞かれ、

頭の中で車の[タイヤ?]を連想したが、

それが「疲れたか?」という意味だと、なんとなくその日には理解した。

 

 

しばらくドライブして、軍の基地に入った。

「こんにちは。初めまして。」

「あっ。どうも、・・・初めまして。」

父は、父の友人だという日本人の自衛官に私を紹介してくれた。

 

私は日本語に「ほッ」とした。

 

 

父はしばらくその自衛官と話をしてたが、

車に乗って去って行った。

 

その晩、私はその自衛官の家に行った。

家族を紹介され、一緒に食事をした。

 

外のテラスに出て、

プールサイドでビールを飲みながら語り合った。

(もちろん私はコーラです。)

 

今でも忘れえぬ、素晴らしい夜のひと時だった。

 

私は私が嫌いであった。

私には価値がない。

私には生きている価値はない。

自分のことをそう思っていた。

 

ところがこの自衛官は、

私のような価値の無い者のために、

時間を割いて丁寧に語り合ってくれた。

 

今思い出しても、涙が出る。

在り難い。

 

〇〇さん。

ありがとうございます。

この場を借りて、お礼を言います。

本当に感謝しています。m(__)m

 

「ジョニー君は、何がしたいの?

ジョニー君は、何が出来るの?」

何がしたいか? 何できるか?

私の頭に、漫画「エリヤ88」のパイロットが浮かんだ。

俺はパイロットになりたいか?

・・・・分からない。

次に漫画「タイガーマスク二世」が浮かんだ。

俺はプロレスラーになりたいのか?

・・・・分からない。

私は何がしたいんだ? 私は何になりたいんだ?

・・・・・

 

でも、それが分からないから、

俺はここに来たんじゃないか?

 

しばらく考えてこう言った。

「あの~。人は何のために生きているんでしょうか?

・・・・

生きていることの意味って、何なのでしょうか? 」

 

「・・・・・」

 

彼はしばらく考えてた。

そして言葉を選んで、ゆっくりと哲学的な事を話し出した。

お酒も入っていたからか、夜遅くまでお話ししてくれた。

 

人生とは何なのか?

人は何のために生きるのか?

人は死んだらどうなるのか?

 

その方は素晴らしい自衛官である。

今でもその人と過ごした時間を、

私は決して忘れない。

私のような愚かで馬鹿な者のために時間を割いてくださった。

その方と、その方の奥さんに、

本当に本当に感謝している。

 

父が駐車場で待っていた。

お礼を言って、そこを出た。

 

在り難かった。

在り難かったが、

彼の答えは、私を納得させるものではなかった。

車が夜の道を走っていく。

ガロロロロローン。

「ペラペラペラペラ?」

「はぁ?」

 

言葉の通じない父と子。心の通じない人と人。

アメリカに来れば、人生の答えが分かるかと思ったが、

人生に意味など、ないのかな?

 

「ペラペラペラペラ~?」

「は?」

 

 

 

 

 

「ペラペラ~?」

「は?」

 

 

 

 

「ペラペラペ~?」

「は?」

 

 

 

「ペラ?」

「・・・・・」

 

 

ハーフ牧師がゆく

続く